
目のかゆみと喉の痛みが知らせる、春のはじまりと私だけの秘密
春が近づく気配を感じると、胸の奥がふっとやわらかくなる。まだ少し冷たい風の中に、気の早い光が差し込む朝。だけど、その穏やかさがそのまま私の日常に訪れるわけじゃないことも、もう知っている。あいつが、そう、花粉がそっと、でも確かに、やってくるからだ。
実はこの冬、空気清浄機を買い替えるかどうか、ずっと悩んでいた。最新モデルには、花粉特化のフィルターや部屋に合わせて空気を自動調整する機能がついている。でも値札には「49,800円」。うん、約5万円。その数字を見た瞬間だけ、スッと財布のひもが固くなる。
「5万円あれば旅行の積立にまわせるな」「来月は友だちの結婚式もあるし…」「いや、健康のためなら安いのか?」
頭の中で、あらゆる“もしも”がぐるぐる巡る。結局、“今年もこの子で頑張れるはず”と今の空気清浄機に期待してしまった。
そして今朝。
目覚めたばかりの顔を鏡で見ると、鼻まわりは昨日の名残でがびがびしていて、触れれば粉が舞いそうなほど乾いている。さらに今日は、目がかゆくて、目を丸ごと洗いたい衝動にかられる。寝ている間に乾燥したのか、喉の奥にもほんのり痛みがあった。空気清浄機はフル稼働させていたのに、どうやら私の防御をすり抜けてきたらしい。
――やっぱり、5万円出しておくべきだったかも。
そんな後悔がふいに胸をかすめる。
保湿クリームを丁寧に重ねても、春の空気は容赦なく肌の水分をさらっていく。ファンデーションがうまく乗らない朝は、なぜこんなにも気持ちが弱るのだろう。季節の変わり目って、身体だけじゃなく心にもくる。
外に出ると、ふわりと春の風が頬を撫でる。その優しさの中に、ほんの少しだけ棘のような気配を感じて、「ああ、今、飛んでるな」と静かに悟る。誰にも見えないのに、なぜか分かる。この第六感は、毎年の積み重ねで会得したようなものだ。ポーチには常に目薬が入っていて、今日はいつ取り出すことになるかな、とさり気なくその位置を確かめる。
そして私は今日も、誰にも言わない小さな秘密を胸に抱えている。マスクの内側、そっと鼻の穴に忍ばせたティッシュ。息が少しこもるけれど、突然の鼻水に振り回されるよりはずっといい。歩きながら「今、ずれてないよね…?」と心の中で確認する仕草は、ベテランの域である。
そんな自分を少し笑ってしまう瞬間もある。たぶん、この季節を生き抜くために必要な、ささやかなユーモアだ。
すれ違う人の会話の中に「今日花粉すごいね」と聞こえてくると、なんだか仲間が見つかったようで、ほっとする。花粉症じゃない人に「風邪?」と聞かれても、もう怒る気にもならない。「ううん、全身で春を感じているの」と心の中でそっと答える。
がびがびの鼻も、隠されたティッシュも、むくんだ目も、しみる目薬も、全部ひっくるめて、今年も春がやってきた。
ただ、ときたま「これ、いったい、いつまで続くんだろう」そんな小さなため息のような疑問が胸をよぎる瞬間がある。でも、答えは毎年なんとなく知っている。気づいたときには終わっていて、あの時を振り返り、「ああ、今年も乗り越えたんだ」と胸を張れるのだ。
花粉に振り回されながらも、ちゃんと季節とともに前へ進んでいる自分が、少しだけ愛おしい。鼻は負けても、気持ちまでくしゃみで飛ばされるわけじゃない。
そんな静かな強さを、私は知っている。
そして今年の春、もうひとつ気づいたことがある。
「必要なときには、家電くらいポンと買えるくらいの家計管理をしておかなくちゃ」と。
花粉の季節が終わるころには、私も少し賢くなっているはずだ。
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