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ホワイトデーのお返しに動く心と、私の小さな“保険”

2026.03.06

お返しのキャンディがもたらした、ささやかな勘違いとざわめき

部署で淡々とお返しが配られる光景は、毎年のことながら少しだけ心が浮く。私も、いつもお世話になっている向かいの席の同僚から、何気なく小さな紙袋を受け取り、静かに席へ戻った。今年も“会社の季節行事”のひとつに過ぎない——そう思っていた。

袋を開けると、中には小さくてかわいらしいキャンディの包み。その瞬間、後ろから同僚がのぞき込んでくる。「え、それキャンディ? ホワイトデーのお返しでキャンディって、“あなたが好き”って意味なんだって。」

冷やかしだとわかってはいるけれど、どこか胸の奥がざわつく。贈り物ごとに“意味”があるらしいと調べてみると、クッキーは「友達」、そしてキャンディは——「好き」。たった一言なのに、思わず手が止まった。

私が渡したチョコは箱入りの、少しだけ良いもの。けれどそれは、いつも仕事で助けてもらっているお礼の気持ちを込めただけで、特別な意図などなかったはずだ。なのに、思わぬ言葉が心に触れ、静かに鼓動が強まる。

そんな自分に苦笑しつつも、同僚は完全に楽しんでいる。「ほら〜、絶対脈あるって。」やめてほしい。私はこういう時、妙に影響されやすい。——こういう勘違いをしない“心の保険”でもかけておきたいくらいだ。

 

——しかし、その気配はわずか10分で消えた。向かいの席から聞こえてきた声。「彼女には何をあげるの?」「旅行をプレゼントしようと思って。」彼が別の同僚と交わしていた会話が耳に入った瞬間、さっきまでの高鳴りはすっと静まり返った。

ほらね。私の10分間の勘違いとざわめきを、返してほしいくらいだ。とはいえ、あの小さなドキドキが春の午後を少し明るくしてくれたのも事実。

ホワイトデーのお返しに“意味”がなくても、つい勝手に物語をつくってしまう心の動きこそ、この季節のささやかな魔法なのかもしれない。

私はキャンディをひと粒口に含む。甘さがふわりと広がり、「まあ、こういう日も悪くないか」と、静かに笑った。