
「この写真、すごくきれいじゃない?」
友達から見せられたスマホの画面に映っていたのは、水の都・ベネチア。
「イタリアいいね!行ってみたいな~」なんて、なにげなく口にしたら、彼女の目がギラッと光る。
「え、行っちゃう!?私、仕事休めるし!」とノリノリで乗っかってきて、秒で旅行サイトを開いている、彼女の行動力に驚いた。
でも、いざ調べてみると航空券とホテルで30万。食費に美術館巡りにお土産に、ざっと40万円コース。
ちょっと待って、40万はかなり大きいよ。
「今しかできない」は、魔法の言葉か、悪魔のささやきか
「若いうちに行かないと!」「いつでも行けると思っていると、行けなくなるよ」
──うん、それは知ってるよ。
でも“知っている”のと“今40万払えるか”は、また別の話。
あれもこれも、全部正しい。
将来の備えも必要だし、せっかくコツコツ貯めてきた貯金が一気に減るのは、今までの努力が水の泡になる気がして…。
友達と長期間休みを合わせられるのも、きっと今がギリギリ。
仕事が忙しくなったり、結婚したり、子どもが生まれたりしたら、もうこんなチャンスないかも。
悩みに悩んで出した答えは、「これは、“経験”という名の投資だ」。
この判断が合っているのかはわからない。
でも、たぶん行かないほうが、あとあとずっと尾を引きそうな気がした。
あの時間、あの景色、あの笑い声。全部が値段以上の価値だった
イタリアでの時間は、なんてことない瞬間までもが宝石みたいに光っていた。
カフェテラスで飲んだカプチーノ。迷い込んだ路地裏。
石畳の道がかわいくて、直感で選んだピザが感動的においしくて、気づいたら1日何百枚も写真を撮っていた。
そして、夕暮れのフィレンツェ。
ドゥオモが茜色に染まる景色を見た時、友達がぽつりとつぶやいた。
「この景色、一生忘れないと思う」
私はその一言に、うん、うん、と何度もうなずいた。
帰国後、数か月後にきたクレカの引き落としを見て、軽くひるんだりもした。
でも、思い出すのはあの日の記憶。あの時の空気、光、匂い、友達の笑い声。
「このために貯金していたんだよな」って、本気で思えた。
“今”を楽しむために、”未来の安心”を用意するのも悪くない
たしかに、40万円は安くない。
だけど、備えてばかりで“今”をスキップしてしまったら、本末転倒かもしれない。
「行くなら今しかない」と思えたこと、その気持ちに素直になれたこと。
そして、思い切って踏み出した一歩が、想像以上に自分を満たしてくれたこと。
懐は軽くなったけど、心はびっくりするくらい満たされた。
それに、旅のあとにふと思った。
こうして“今”を楽しむためにも、ちゃんと“未来の安心”を用意しておくのも悪くないかもなって。
もし何かあっても大丈夫、そう思えるだけで、きっと、もっと前向きに素直に行動できる。
そう気づいたら、貯金とか保険とか投資とかって、“未来のため”だけじゃなく、“今を安心して生きるため”のものでもあるんだなって。
だからこそ、これからの私に合った“安心のかたち”を、少しずつ考えていきたい。
将来の不安を減らすことで、今この瞬間をもっと楽しむ余裕が生まれる気がするから。
生活者向けのイベントディレクターや広告ディレクター、雑誌・Webメディアの編集などを経験し、ライターへ。推しと美容と旅行が好きなどこにでもいる30代。








