正直な自分は隠しきれない
2025.12.01

健康のために早朝散歩を日課にしていた時期がある。最近は生活が夜型になって怠けているが、毎朝歩いていた頃は心身ともに調子がよかった。日の出の頃、まだ街が動き始める前の空気は清々しく、すれ違う人にも挨拶したくなるような爽やかさがある。
そんな朝活を続けていたある日、道端で財布を拾った。黒い革の長財布で、いかにも中身がぎっしり詰まっていそうだ。「ラッキーじゃないか! 持って帰っちゃえ!」と脳内の悪魔が囁く。しかし、朝活中は不思議と「善人」のスイッチが入るもので、交番に届けることになる。
そこから歩いて数分。交番には警官がひとり。財布を差し出して拾った場所を説明する。
「それはそれはご苦労さまです! どうぞどうぞ!」と歓迎され、お茶のひとつでも出してくれるだろう・・・そんなイメージを抱いていたが、現実はまったく違った。警官は淡々としており、出てきたのは遺失物拾得届。拍子抜けしつつ、書類に目を通す。
「謝礼を望みますか?」と聞かれ、一瞬だけ心が揺れたが、首を横に振った。匿名の善意を貫くことで、この善行は完成する。善人100パーセントな英断を下したにもかかわらず、警官は特に驚くでもなく、「では、書類の記入だけお願いします」と事務的な調子。
名前、住所、電話番号を書き終えると、警官が名前の欄を見て「こちら、なんと読むのでしょう?」と尋ねてきた。僕の名前「住正徳」は少し読みにくい。「すみまさのり、と読みます」と答えると、「あぁ」とだけ返される。その反応に対して、つい「ふりがな振りましょうか?」と言ってすぐ、ハッと気づく。
謝礼を望まないのだから、ふりがななんて必要ないのだ。
本当は落とし主に感謝されたいし、できれば謝礼だってほしい。自分の善人ぶりがまったく評価されないことに、実は少し苛立ちもある。そんな本音が、「ふりがな振りましょうか?」という言葉となって出てしまったのだ。
恥ずかしさのあまり、逃げるように交番を後にした。
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